鯖街道ウルトラマラソン2025完走記|77kmの山越えと補給トラブルを越えて
■ 毎年出ていた横浜トライアスロンを休み、一転「鯖街道ウルトラ」へ
毎年この時期は横浜トライアスロンに出場するのが恒例でしたが、今年は一転。
ずっと心の片隅で憧れていた「鯖街道ウルトラマラソン」に挑戦することに決めました。
距離は77km、山を3つも越える本格的なトレイルレース。
正直不安はありましたが、かつて小浜から京都へ鯖を運んだという歴史あるルートを自分の足でたどる——
その「ロマン」に惹かれ、エントリーボタンを迷わず押していました。
■ 前日、小浜で“相棒”と出会う
スタート地点の小浜に前日入りし、受付を済ませてブースを見ていると、あるものが目に入りました。
それは、鯖のぬいぐるみ。
「これはもう、一緒に行くしかないな」と購入し、トレランザックにピン留め。
今回のミッションは「完走」に加えて、“鯖を小浜から京都へ無事に運ぶ”ことにもなりました。


■ エイド配置を事前確認し、作戦を見直す
このレースで完走の鍵を握るのは「エイドでの補給」だと感じていたため、前日に公式マップを見て各エイドの距離や内容をチェック。
「どこでジェルを摂るか」「水は持つか」など、自分なりに作戦を組んで挑みました。
【Aコース:エイド一覧と当日の様子】

No. | エイド名 | 距離 | 実際の補給・様子 |
---|---|---|---|
1A | 下根来(しもねごり) | 10km | スルー。まだ元気だったので補給せず通過 |
2A | 上根来(かみねごり) | 15km | 水分とバナナを補給。この時はまだ余裕あり |
3A | 針畑ルネッサンスセンター | 24km | しっかり食事が摂れてエネルギー補給成功 |
4A | 小川集会所 | 34.5km | 脚に疲れが出始めたが、まだ落ち着いていた |
5A | 久多 | 40km | 補給不能。唯一食べられたのはオレンジ |
6A | 二ノ谷 | 47km | 「リタイア」の文字が何度も頭をよぎる |
7A | 杉峠 | 56km | 最後の峠。脚を動かすのは気力だけ |
8A | 鞍馬 | 64km | 市街地手前。脚は終わっていたが前へ |
9A | 西賀茂 | 67km | 「あと少し」の言葉がリアルになる |
10A | 賀茂大橋下公園 | 72km | 最終補給地点。ラスト5km、魂で走る |
■ 久多エイド(40km)で異変、補給不能に
トラブルが起きたのは、40km地点の久多エイド。
八ツ橋、きゅうり、そうめん……どれもまったく食欲が湧かず、おにぎりも一口で断念。
体がまったく受け付けてくれない。
そんな中、唯一食べられたのがオレンジでした。
しかも、カットされたオレンジを4個分くらい夢中で食べたと思います。
水分もビタミンも摂れるし、何よりとにかく美味しかった。
あのオレンジがなければ、そこで終わっていたかもしれません。
実は私は、日本一長いトライアスロンと呼ばれる佐渡トライアスロンAタイプ(スイム4km・バイク190km・ラン42.2km)を過去に完走しています。
その佐渡でも、最後のランパートで同じように補給不能に陥り、水分すらまともに摂れなくなりました。
今回もその悪夢の再来。後半への不安が一気に押し寄せてきました。
■ そしておぐろざか峠。地獄の登り
そんな状態で現れたのが、標高867mのおぐろざか峠。
脚も胃も限界の中、40km地点を越えてから延々と続く登り。
汗は止まらず、頭はボーッとし、何度も足を止めてしまう。
「まだ30km以上残ってるのに、ここで終わるのか」と思うほどの絶望感でした。


■ 「鯖を届ける」その想いだけが原動力
脚は売り切れ、補給もできない。
だけど、トレランザックにピン留めした鯖のぬいぐるみが何度も自分を鼓舞してくれました。
「絶対に、京都まで鯖を届けるんだ」
誰かに頼まれたわけでもなく、報酬があるわけでもない。
でもその使命感だけが、歩き、走り、また歩き……を繰り返すエネルギーになっていました。
■ ラスト5km、走ってゴールへ
市街地に入り、最後のエイド「賀茂大橋下公園」を通過。残りはわずか5km。
ここまで来たら、最後は絶対に走って終わりたい。
歩いて温存しながらタイミングを見て、ラスト1kmでスパート。
そしてゴールしたのは、制限時間12時間のわずか15分前でした。
■ 鯖、無事に京都に到着しました
完走メダルを手にするより先に、私はザックのぬいぐるみを外して、こう思いました。
「鯖、おつかれ。ちゃんと届けられたよ」
鯖街道は単なるレースではなく、自分との対話、そしてロマンを背負った旅でした。

■ 翌日、筋肉痛で便器に座れない■ ゴール後の温泉と静かな達成感
ゴール後、受付会場で荷物を受け取り、近くの銭湯へ。
シャワーの水すら重たく感じるほど疲労困憊の状態でしたが、湯船に体を沈めた瞬間、全身の筋肉がゆるむ感覚に包まれました。
ふと横を見ると、同じように無言で湯につかるランナー。
お互い目を合わせ、軽くうなずくだけで、すべてが通じ合うような気がしました。
こういう瞬間のために走っているのかもしれません。
翌日は予想どおりの筋肉痛。
階段もトイレも地獄でした。
でも、これまでのどの筋肉痛よりも、誇らしくて、満ち足りた痛みだったと思います。
■ まとめ:鯖街道は「走る」を超えた体験だった
鯖街道ウルトラマラソンは、ただのトレイルレースではありません。
歴史とロマン、そして自分との静かな対話の旅です。
また出たい。次こそ、もっと余裕を持って、笑いながら鯖を届けられるように。
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